とあるお宅の倉庫サイトのブログ 【最近:自分の創作におぼれている!▼】
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とある魔法使いの家の双子の妹の話
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「双子に‥、妹に生まれただけでずっと比較され続けてきてさ! どんなに勉強したって、どんなに修練を積んだって、どんなに努力したって! 『双子だから』『双子なのに』『妹だから』『妹なのに』って! 出来のいい姉には出来の悪い妹の気持ちなんてわからないんだ! あたしだって、あたしだって…! ……ッ、お姉ちゃんのバカ!!」
「待ちなさい、どこに行くの!!」
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「うわ、ひどい顔」
「……うっさい」
「またまたそんなこと言ってー、ネイビィちゃん傷ついちゃうぞー」
「……」
「……はあ。喧嘩したんだって?」
「……」
「まあいつかそんなことになると思ってたけどねーネイビィちゃんは」
「……」
「いいじゃん別に。家族が必ずなかよくなれるなんてネイビィちゃんは幻想だと思います。ま、アクアが言いたいのはそういうことじゃないだろうけどね」
「……」
「八つ当たりして後悔してるんでしょ」
「……」
「親を始めとした周囲に、『魔法使いの家の双子の優秀な姉の妹』としてじゃなくて、『個人』として見てもらえなかったのが悔しかっただけで、お姉ちゃん自身に嫌気が差してたわけじゃないんでしょ」
「……」
「そんな偏見する奴らがいる環境なんか捨てちゃえばいいとネイビィちゃんは思います」
「……? 捨てる?」
「そ、捨てる」
「で、でも、」
「分かりますよぉーく分かります、周囲が好きだからこそその周囲に自分を見てほしかったって気持ちはよぉーく分かります。だけど色眼鏡で見てくる人にこのまま囲まれ続けていたら、アクアはきっと失意の内に遠くない未来で死んじゃうとネイビィちゃんは思います」
「……」
「ネイビィちゃんとしてはそれは全力で回避したいので、いっそこの星を飛び出して別の星で新しい人生を歩むことを勧めようと思うわけです」
「別の星?」
「そう。そもそも休眠星なんて揶揄されて平和でしかないレスト星で魔法を使うなんてこと自体、ネイビィちゃんとしてはちゃんちゃらおかしいと思います。仮に魔法を平和利用しようという考えのもとにレスト星が魔法を推進していて、その考えに基づいてトランス家がアクアに魔法を教えているというのなら、教えられている魔法が攻撃したりなんだりなんていう害を加える魔法なのはネイビィちゃんはそいつぁ変だと思うわけです。アクアは演習や他の星での探査以外で魔法を効果的に活用したことありますか?」
「そ、れは、‥ないけどさ」
「魔法にしろ何にしろ、効果的に使われる環境にあってこそ技術が磨かれて洗練されていくわけで、ただの余興や無駄な力なのだったらいずれは衰退していくさだめだとネイビィちゃんは考えます。だからこんな魔法の技術が埃かぶって停滞している星で魔法の勉強を熱心にしたって、何のためにもならないとネイビィちゃんは思います。アクアは今すぐにでもこの星を出て、そうね‥ブロード星にでも移住するべきです」
「ブロード星? なんでまた‥」
「ブロード星はいまいち不安定なせいで兵器が溢れかえっていて確かに危険なこともないわけじゃない星だけど、その分魔法の技術もレスト星の比にならないくらい磨かれていてその進歩は目覚ましい星だから、アクアがもし今でも魔法を勉強したいというのなら、ブロード星の魔法学科のある学校に所属して勉強した方がアクアのためだとネイビィちゃんは思うわけです」
「……」
「アクアは今『魔法を勉強して周囲を見返してやる』と思ったかもしれないけど、仮にアクアがすごい魔法使いになっても周囲は『さすがトランス家の娘、スパークの妹』としか言わないだろうとネイビィちゃんは注意しておくよ。それでもいいと思うのなら、今すぐ家に帰って荷物をまとめて。ブロード星行きの宇宙船の手配はあたしがしておくから」
「…分かってる。ありがとネイビィ、ちょっとダッシュで荷物まとめてくる!」
「どういたしまして。いい未来を祈ってるよ、あたしのマスター、あたしの大事なともだち」
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「座学が苦手、と言っていたけど。理詰めは苦手、ということかな」
「いや、理詰めでも別にいいんです。ただ、」
「ただ?」
「魔法って、それこそ……『魔法』じゃないですか。理屈が通らなくて、どこまでも『魔法』で――『魔法』だから魔法だって言われても、あたしはそれが納得行かないんです。想像したことが現実になるって、たとえそれが現実に起こっていても、理解不能で、納得行かなくて、腑に落ちなくて……家にあるどんな本を読んだってそれをあたしに解らせてくれる本はなかったんです。解りたいのに解らないんです」
「――なるほど」
「魔法ってそもそも何なのか、すら分かんないから、その先も芋づる式にずるずると分からなくなっちゃって……もちろん、あたしの理解力不足だってこともあると思うんですけど……あはは」
「いや――君はいい目をしている。そう思う」
「え」
「僕が在学していた頃――今でもそうかも知れないが――魔法学科の在学生や教諭は、魔法が『魔法』であることに何の疑問も抱いていなかった。想像したことが現実になる‥非現実的な現実を『それが現実だから』と丸飲みしてしまっていて、どうしてそんなことが起こりうるのかと疑問に思う人は僕の知る限りではいなかった。……もっとも、当然のことかも知れないけれど。魔法学科は『魔法を扱う術を学ぶ場』であって『魔法とは何なのかを突き詰める場』ではないから」
「……」
「魔法学科だけじゃない。魔法というものを知る多くの人が、魔法をどこまでも『魔法』だと思い、信じて疑わない。だから『魔法とはそもそも何なのか』と思う人自体極僅かだし、そんな疑問に答えてくれる人は当然いない。これは、あまりに当然のように魔法が存在してきた弊害だと僕は思っている。『魔法とは何なのか』と、君がどんな人に訊ねてどんな本を読んでも腑に落ちなかったのは、今のこの風潮では仕方のないことかも知れない、と思う」
「‥魔法学科、あたしに向いてないんでしょうか」
「いや。さっきも言ったけど魔法学科は『魔法を扱う術を学ぶ場』だから、君は今のまま魔法学科で技術を磨くといい。そして、魔法とは何なのか、それが知りたいと思ったら――放課後に魔法科学科の研究室の扉を叩くんだ」
「魔法科学科、ですか?」
「君の『魔法とは何か』という考え方は魔法科学的な考え方なんだ。いずれは魔法学科‥いや、世間にも浸透するだろうけれど――未だその未来は遠い、と僕は思っている。だから、そういう疑問が湧いたときは魔法科学科の生徒や教諭に声をかけてみるといい」
「えええ、ち、違う学科の人に声を掛けるんですか?」
「抵抗があるかもしれないけれど、勇気を出して話しかけてみるといい。忙しくなければ、快く応えてくれるはずだ。――魔法科学科の人間は、「魔法とは何か」と考え、理解しようとする人間‥いわゆる『同志』に飢えているから。それはもう、君が思っているよりはるかに」
「……わかりました、今度行ってみます!」
「そして僕も、分かる限りなら君の疑問にも答える。それでどうかな」
「えっ‥ほ、ほんとですか!」
「さっきも言ったけど、『魔法科学科の人間は、「魔法とは何か」と考え、理解しようとする人間に飢えている』んだ。――僕も決して例外ではない、ということだよ。……アクア、」
「はい?」
「大丈夫、君は出来る子だから。自信を持っていい」
「……! はい、あ、あの、その、」
「‥よしよし。困ったな、泣かせるつもりはなかったんだけど」
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「簡単に言うと……魔法は使い手の『想像力』と『転移力』で効力や精度が決まるということ。これを念頭に置いておいてほしい」
「『転移力』? 想像力が必要なのは魔法使いの間では常識ってくらいに言われますけど……転移力ってなんですか?」
「簡単に言うと、『物を移動させる力』。厳密に言うと、物質をある場所から違う場所へ転移させる力。……まあ、FAXみたいなもの。かな」
「物を移動させる力、っていうのも結構魔法的ですけど…」
「というよりは、『魔法の正体=転移力』なんだ。そういう意味では、魔法はすべからく『魔法』というよりは『超能力』と言ってもいいかも知れない」
「『魔法を魔法たらしめるもの』ってことですか?」
「そう。物を想像することは誰にでもできる。だけど物を転移させることは誰しもができることじゃない。魔法使いの才能のあるなしは転移力の方にかかっている、と言っても差し支えはないだろうね」
「そうなんですか?」
「ああ。たとえば‥炎を燃やす魔法を使うとする。その時、多くの魔法使いは頭の中で燃え盛る炎をイメージして、魔法を発動させると炎が現実で燃え盛る。だいたいこんな感じだと思うけど……」
「あ、はい」
「魔法使いが頭の中で魔法をイメージするとき――いや、魔法使いに限らず何かを頭の中でイメージするときは誰しも‥想像上の世界、『想像世界』が広がっている。何もないところから炎が燃え上がる、晴天に雷光が走る、川の水が氷結する……自然現象ではありえないことでも想像上では可能だからね。そしてその想像を現実に起こすのが魔法だ。魔法を魔法たらしめるもの‥転移力は、『想像世界のものを現実世界に転移させる』ことでそれを現実に起こすんだ」
「想像したことを現実で同じように起こすんじゃなくて、想像したことを現実に持ってきて起こすってことですか?」
「そう。魔法を使うときに詠唱をしたりするのは、詠唱の内容が使い手の想像を膨らませると同時に、詠唱を締めくくることで無意識に想像世界から現実に魔法を転移させるタイミングを作っている、という2つの利点があるからなんだ。――ところで、君は『星模様』という物を知ってるかな」
「星模様? コルオーズ星系の秘宝ですよね? 『手に入れるとコルオーズ星系を思い通りに出来る』って言い伝えのある‥」
「そう、それのこと。その星模様も、魔法と同じく『想像世界を現実に持ち込む』ことでコルオーズ星系を思い通りにする、という仕組みで出来ている。これは僕が独自に取材したことだから、まだ研究が必要な案件だけれど。――話を戻そう」
「あ、はい」
「魔法使いの素質として大事なのは、想像力よりも転移力の方。もちろん想像力も大事だけれど、想像力で術者の想像世界にどんなに強力な魔法の想像が出来たとしても、それを想像世界から現実世界に転移させるための転移力が乏しければ、それは現実に起こせないんだ」
「じゃあ、魔法を上達させたいなら転移力をどうにかして鍛えればいいんですか?」
「そうなるね。ただ‥この転移力の鍛え方は今のところ不明で未だ解明されていないから、魔法学科も想像力を鍛えることで魔法の威力を強める、という方針が未だ強いんだ。この件に関しても魔法科学科の者が研究中だろうから、暇なときでも見つけて研究室に出向いてみるといい」
「はい、わかりました!」
「ざっくりと説明したけれど、簡単な仕組みはこんな感じで捉えてもらっても支障はないよ。質問はないかな?」
「えっ? あ、はい、今は特にないです」
「それならよかった。なにぶん、人に物を教えるというのは初めてだからね……分からないことがあったら、僕の答えられる範囲で答えるよ」
「ありがとうございますッ!」
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「僕は転移力の向上を図る手段として、転移力を直接的に使うもの――テレポートなどを使い込む、ということを今仮説として立てているけれど‥まだちゃんとしたデータが揃っていないから、確証はないんだ」
「転移力を意識して使う、ということですか?」
「それもあるよ。でもそれよりも、転移力の技術としてテレポートは実はかなり高度であるという点があってね」
「そうなんですか?」
「転移力は、想像世界から現実世界に何かを転移させるよりも、現実世界の何かを現実世界の別の場所に転移させるほうが実は強い力を要する、ということが分かっているんだ」
「へええ…なんか意外です」
「もっとも、これは『想像世界から現実世界に何かを転移させる』という行為が『魔法』として誰もが納得しているから、という意識の問題もあるんだけれど。『現実世界の何かを現実世界の別の場所に転移させる』という行為は、それが可能だということを術者本人も信じていなければ成立しないんだ。これは、『そんなことができるわけがない』という意識が何処かにある人には超能力が使えない、という理屈と似ているかもしれない」
「想像で自分が今の場所と違う場所に移動している姿を思い浮かべて、それを転移力で実行する、っていうのは、転移力を直接的に使ったことになるんでしょうか?」
「なる。……と、僕は考えている。術者の存在は想像世界のものじゃないからね」
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・ネイビィ
アクアが魔法書を読んで人工的に作り出した存在で、魔法物質の疑似生命。
元々は定形を持たず性格も曖昧だったが、アクアの知り合いの姿を模倣したことでそれが定着、
現在はその姿で安定し、性格もその人物をもとに独自のものになっていった。
アクアは根はいい子なので、からかったりしなければ反発しない子なのです。
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